“映画づくり”“人づくり”は“街づくり”

あの夏の“完全合宿体制”撮影の日々を語り合う

『幸福な結末』キャスト対談

2010年夏、キャストもスタッフも“完全合宿体制”にて
三河を中心に撮影された映画『幸福な結末』。

あの熱い暑い日々からまもなく一年。
主要キャストが再び集い、当時の想い出やこぼれ話を監督と共に語り合います。

※ページ内記事提供:“我がまち大好きフリーマガジン” 三河映画バフ(2012年5月発行)

▲左から 岩松あきら(監督)、相馬有紀実(なっちゃん 役)、井上秀之(桐原薫 役)、杉山快俊(創作教室の仲間1 役)

井上 × 相馬 × 杉山(快俊)× 岩松

岩松監督(以下:岩) あれ、井上さんの今日、着てる服って、オーディションの時に着てたのじゃない?

井上秀之(以下:井) そうそう、初心を忘れないようにしようと思って。

 井上さんは、東京でキャスティングの最終面談したとき、「仕事を辞めて3か月前から豊田で暮らすつもりです」って言ってくれて。そのひとことに胸打たれて即決しちゃったんだよね。「じゃあ、お願いします」って。

 そうですね。

 で、本当に撮影の3か月前に豊田に引っ越してきてくれた。実際大変だったでしょ。

 全然、普通なことですよ。結構仕事で全国転々としているし。温泉に入るの好きだから、豊田で温泉にたくさん入れてよかった。豊田の温泉は全国一だよ。

 撮影の1か月間は、完全合宿体制だったけど、どうだった?

 合宿所の食事は、しっかりしてたよね。あれはうれしかった。

 ちゃんと炊事班が当番制で食事を作ってくれてたもんね。撮影が終わる時間が読めないし、合宿所に戻ってくる人数も流動的だったから、かなり大変だったと思うけど。ありがたかった。では、本題だけど。撮影で大変だったことって何だった?

相馬有紀実(以下:相) そりゃあ、遊園地のシーン。フリーフォールが怖くて…。ずっと足がガクガクで震えてたもん。

 泣いてた、泣いてた。

 あ〜ぁ、思い出してきた〜。

 でも、本番になると、元気いっぱいのなっちゃんになりきってやってた。あの根性はさすがプロだと思った。

 それから、なっちゃんのキャラクターがなかなか捕まえられなかったのも苦労した。現場で共演する役者さんたちと絡みながら見つけていった感じだった。で、現場ではいつも、なっちゃんでいようって思って、ずっとハイテンションだった。

 そうだね、スタッフとして参加してるときも、相馬さんは元気いっぱいだったもんね。いつもチームを盛り上げてくれてた。

杉山快俊(以下:快) 僕が大変だったのは、飲み会で歌って踊るシーンかな、やっぱり。

 リハーサルの時に、「監督、歌を自分でつくってきていいですか」って提案してくれて。うれしかったなぁ。

 あれは良かったよね。

 ホントすか。YoutubeでWinkの映像、何回も観ましたもん。振り付けまで考えて、相手の健太郎くんとは合宿所ですごい練習しましたよ。

 まぁ、本編で使ってるのは2秒くらいなんだけど…

 えぇ〜っ、マジですか。

 共演者はどうだった?

 清水さん(少女役:清水香奈)はすごかった。

 映画も演技も初めてなのに根性があったよね。彼女を選んで本当に良かった。

 自分とすごくタイプが似てて、どんな演技をしたらいいのか分かってるのに出来ないっていう彼女のもどかしさがすごく分かるんだよね。

 井上さんと香奈ちゃんて、演技のアプローチもそうなんだけど、素の性格までよく似てるんだよね。二人一役という役どころにすごく合ってた。僕がリハーサルで香奈ちゃんとやり合ってると、井上さんの方がいてもたってもいられなくなって部屋を出て行ったりしてね…。

 本当に自分の若い頃とそっくりで。彼女は自分の殻を破ることが出来ずに苦しんでたと思う。

 クランクイン1週間前は、それで闘ったもんね。香奈ちゃんが2日くらい演技も全然出来なくなっちゃって。リハーサルがストップ。僕と井上さんと香奈ちゃんの3人で延々と話し合って。その間、美術スタッフが小道具を僕に見せに来るんだけど、ドアを開けたら…

 部屋の重い雰囲気に耐えられず…

 無言のまま閉める…みたいな。ずっと彼はドアの外で待ってた。

 可愛そう〜。

 でも、あの1週間で彼女は一気に変わった。クランクインでは、すごく堂々としててビックリした。

 そうそう。リハーサルからずっと演技のアドバイスをしてたけど、喫茶店のシーンの撮影のとき、彼女のパワーに圧倒されて、ヤバイ負けそうだって…。自分もちゃんとしないといけないって思って焦った。

 井上さんの集中力もすごかったよ。カットかかるごとに、その場に倒れ込んでて、撮影中は誰も声をかけられなかった。こんな役者さんに出会ったのは初めてだった。

 そうそう。撮影の合間もすごい集中してて、控え室でも緊張感でシーンとしてて…。私、居づらくて外フラフラしてたもん。

 スタッフもキャストも本当に熱くてすごかったよね。いい人ばっかりで団結してた。

 今思うと、反省点はたくさんあるけど、あのときはあれがベストで、あれ以上のものはつくれないと思う。

 あれ以上は無理だね。出番がないときは、役者もスタッフとして働いてくれたもんね。相馬さんは、衣装やメイク。快俊くんは、助監督でもがんばってたよね。主演の香奈ちゃんに「カチンコのタイミングが気持ち悪い」って言われて凹んでたけど。

 今度はちゃんとカチンコ叩きますよ!

牧野 × 石田 × 岩松

 オーディションは豊田だったでしょ。普通は二の足踏むと思うんだけど、それはなかったですか?

▲左から、石田貴洋(借金取りらしき男 役)、牧野恵子(女性編集者 役)

牧野恵子(以下:牧) それはなかったですね。私はいつも緊張して、実力が出せないんですけど、今回は違ってて。私は夜行バスで行ったんですけど、バスを降りて、豊田の地に立った瞬間に、なんか、受け入れてくれている感じがして全然緊張すること無かったんですよね。でも、実際に会場に人がいっぱいいて、周りにスタッフさんとかがいたら緊張するんだろうなと思ったんですけど、全然そんなことなくて、純粋にオーディションを楽しめましたね。初めての感じでした。

 石田くんは?豊田でのオーディションはどうだった?

石田貴洋(以下:石) 僕はその前に「プレ合同オーディション」っていう、ブラック・インディ!にエントリーした監督さん達と話すパーティ(※注1)があって、そのときに岩松監督とお話しさせてもらって、「やっべぇー、これ出たい!!」っていうのが一番あったんで。そういう気持ちが強かったです。

 ああ、東京のときのね。あのときは実際に話聞いて、どうだったの?

 オーディション志願者の人たちが限られた時間の中で入れ替わり立ち替わり、監督ブースを回ってたから、ブラック・インディ!の監督さん達はみなさん、ずっと同じことをしゃべり続けていて。そうすると、どうしても話が流れ作業なんじゃないかなっていう感じは少し見受けられたんだけど、岩松監督に関しては、ちゃんと向き合って話してくれてるなっていうのがあったし、作品のメッセージが強くて、監督の気持ちが強くて、フィーリングも合うかなって勝手に思ってました。で、「出たい!」って。

※1 パーティ = 2009年12月、東京・渋谷にて開催された『ブラック・インディ!ナイト/プレ合同オーディション(通称コミ・オデ)』。総勢200名を超える役者が、合同オーディション前に監督と直接コミュニケーションを行う。役者陣・制作陣共に、オーディション前に意思確認を行うという、ブラック・インディ!の醍醐味でもある異例のイベント。

香奈 × 佐々木 × 岩松

▲左から、佐々木常式(石野達也 役)、清水香奈(少女 役)

 二人は一緒にやってみてどうだった?

佐々木常式(以下:佐) 演技は初めてって聞いていたんですけど、本人も言ってたんですけど、「本当に初めてかな?」って思いました。

 どういうこと?

 役に入っていくのとか、合宿の時もそうですけど、ずっと練習してたりとか、いろんな人に相談してたり、頑張ってるなとも思いましたし、でも、その分、才能があるんだなって思いました。

 照明助手の神藤くんも言ってたもんね。香奈ちゃんの台本をこっそり覗いてたんだって。

清水香奈(以下:香) えぇっ〜!!

 そしたら、ぎっしり書いてあって、その姿勢に、自分と同じですごく若いのに、すごいな〜って感動したって言ってた。真面目だもんね。それで、井上さんが(香奈ちゃんにとって)初めての共演だから、演技の仕方とかも井上さんとそっくりのアプローチの仕方というか。

 近づけてはいましたね。結局、少女は、桐原なので。ほとんど全部、桐原っぽい雰囲気を出したかったので、井上さんを真似てました。それはあります。

 リハの時とか、大変だったと思うんだけど、正直、最初は大丈夫かなって思ったもん。

 リハーサルは、(監督が)怖かったんですよ。

 ははは。クランクインの1週間前、井上さんと、香奈ちゃんが殻をまだ破れてないからって、わぁーっと言い合いになったね。あれは決めてたんだ。撮影前にとことん話し合わないとって。あのときは、大変だったよね?

 そうですね。自分は、はっきり覚えてるんですけど、脚本の清水さんもいて、監督にガァーッと、とことん言われて、不安になって、「私、出来ないな…」って思って、そしたら、清水さんが電話で外にいかれて、最終的に誰もいなくなったんですよ、監督以外。井上さんも出ていったんですよね。

 井上さんもね、香奈ちゃんが僕に言われていることが、自分が言われているような感じがしたんだって。普段のキャラとか考え方が香奈ちゃんと似ているから。で、自分に言われてる気がして、辛くなって、「頭冷やしてきます」って出てったんだよね。

 私、そのときはそうだって知らなかったんで。井上さんは呆れて出ていったんだって解釈だったんですよ。で、取り残されたから、「私、これから、どうなるんだろう」って。「あぁ、もう終わりかな」って思ったんですよ、本当に。一気にザァッっと血の気が引きました。

斉木 × 井上 × 川崎 × 岩松

▲左から 岩松あきら(監督)、川崎誠一郎(電柱工事のいかつい先輩 役)、斉木里絵(石野千明 役)、井上秀之(桐原薫 役)

 僕は本編の出来上がりを見てないからわからないですけど、ものすごい土砂降りの雨に打たれて、僕が今までやってきた中で、「これは一番の芝居をした」っていうショットがあったんですけど、それがどうなってるかわかんないですけど。

斉木里絵(以下:斉) そのときの心境によく似た土砂降りの雨が降ってるよね。演技も会心の出来だっていうシーン(笑)。

 2人揃って、責めるね〜(苦笑い)。(シーンが変更されたこと)知ってるでしょ。

 あれは、どうなっちゃったんでしょうね?

川崎誠一郎(以下:川) まさか、無くなったって言うんじゃ…

 あのー…、あるお寺で撮影をしたんだけども、そこにある消火栓を利用させてもらってすごい雨を降らせて撮影をしていたんだよね。それを続けていたら、その消火栓のモーターがオーバーヒートして、ストップがかかり、これ以上続けると、消火栓が壊れちゃうということで、撮影が途中で止まったというシーンがありまして。しかも、撮影できたのは半分ぐらいで、スケジュールではその日に全部撮り終える予定だったんだけど、それも出来ず。で、消火栓はもう使えないということで、「監督、どうするんですか?」とみんなに問いつめられることがありました。それで、私が出した結論は、雨上がりのシーンにしようと。

 ははは。

 ははは。幻のカット…

 川崎さんは、電柱のシーンで大変だったと思うんですけど、役作りを完璧にしていて、びっくりしたんですけど。役作りはどうでした?

 最初は、役柄が違っていて、確か、絵本教室の同級生だったんですけど、台本見たら、「電柱工事のいかつい先輩」って書いてあって、彼はモー娘。の追っかけだと。それで、見たことないモー娘。のビデオを借りまして、一人で見て、踊りました。

 踊ったんですか?

 はい。で、何人いるかを数えて、人数分の色紙を買って。

 マジですか?

 はい。

 最初のリハで歌い出したときはびっくりしたもん。「ラブマシーン」を歌い出したから。そんなト書き(※注2)あったっけ?って。

 ははは。

 尺が長かったんだよね。で、尺、短めに変えてもらったよね?

 はい。

 で、短めでもやっぱり長いかなってなって、結局はなしにしてもらったんだよね。

 えっ!なしになったの?

 すいませんでした。でも、本当に、あのシーンだけなのに、すごく役を作ってきてくれて感動でした。

 本当に参加したいと思ってたんで。

 この映画は、登場人物が多いから、1シーンだけの人も多いんですけど、そういう人たちもすごい役作りをしてくれてて、準備してきてくれてて、気持ちも熱くて、そういうのが(作品の)パワーになるなって思ったね。

※2 ト書き = 台本の中でセリフの間に、俳優の演技、照明・音楽・効果などの演出を聞き入れた文章のこと。

【キャスト対談/終了】